宮崎市定「大唐帝国」

 軽い気持ちで手に取って読んでみたんですが、実に面白かったです。特に五胡十六国南北朝時代は複雑過ぎて良くわからないという私のような者には最高の時代別概説書でした。

 

 この本は大唐帝国という題名ですが、内容の大半はその前段の話です。歴史は流れがありますから唐の時代を知るためにはそれ以前からのいきさつを知らねばならないのですが、やっぱりとっつきにくい。

 

 前漢くらいまでの歴史は史記があり、それを土台にして書かれた魅力的な小説などもたくさんありそこを取っ掛かりにして興味を持って入り込んでいきやすい。

 後漢から三国時代はもう三国志本が山のようにある。隋唐なんかもそこそこ情報が溢れているけれど、五胡十六国南北朝は知れば面白いのだろうけど、いろんな民族が入り乱れ数多くの国が勃興してはすぐ滅び入れ替わり立ち代わり。そこに入り込んで行こうにも物怖じしてしまう。

 

 でもこの本は導入が日本人にはなじみ深い後漢末・三国時代からで入っていきやすく、そこから自然な流れでわかり易く晋・五胡十六国南北朝と進んでいいくのでするするっといつの間にか五胡十六国の世界に入っていけます。

 

 春秋戦国時代から秦、漢の初期までは社会が流動的だったので経済活動も活発で身分も流動的。でも漢代の平和が長く続いた結果経済活動は停滞し(荘園などによる自給自足っぽくなり)身分は固定化していく(貴族と軍人が固定化)、公民が減り異民族がどんどん流入していく流れがダイナミックに描かれていて引き込まれます。

 

 こう書くと学問的な記述ばかりで堅くて読んでいて面白くないのかなって思われそうですが、出てくる人物や行動も魅力的に描かれていて下手な小説なんかよりもエンターテイメントとして優れているように感じました。

 

 そうやって五胡十六国南北朝時代を作者さんにざっくりとではあるが理解させられた視点で唐の時代を見ると、その制度や選択がより深く理解できるような気がします。

 

 作者の宮崎市定さんはこの人抜きでは日本の中国史研究は語れないという素人の私でも名前だけは知っているほどの有名な学者さんなのですが、それにもかかわらず素人の私にもわかり易く面白く読めるほど平易に歴史を記述できるってものすごいことだと思います。さっそくほかの本も読んでみようと思ったのですが如何せんもう二十年近く前にお亡くなりになられた方なので本が入手しにくいのが残念です。

 

 ネット上で評判の良かった「アジア史概説」は注文すれば届きますが、「中国史」上下は上しか手に入りませんでした。下は出版社に問い合わせても在庫はないとのことでした。古本屋めぐりをしなきゃいけないか、もしくはアマゾンの中古品を買うかしかないようです。でも宮崎市定ブームが個人的に到来しているので何とかして手に入れたいと思います。